1 なぜおひとりさまこそ遺言書が必要なのか
近年、生涯未婚率の上昇や家族の多様化により、配偶者やお子様がいない、いわゆる「おひとりさま」が増加しています。お子様のいない夫婦で、配偶者と死別したという場合もあります。
終活を考え始めた方の中には、「自分には相続で揉める家族もいないから、遺言書は必要ない」と思われている方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、弁護士として相続案件を数多く扱う中、配偶者やお子様がいない方の相続で、思わぬトラブルが発生するケースを目にします。たとえば、何年も音信不通だった兄弟姉妹や、面識もない甥姪同士が遺産分割協議をしなければならず、感情的な対立に発展したり、手続きが何年も停滞したりする事例は決して珍しくありません。
本記事では、おひとりさまだからこそ遺言書の作成が必要であること、配偶者やお子様がいない方が遺言書を作成する際に知っておくべきポイントについて、相続案件を多く取り扱う弁護士の観点から解説いたします。
2 おひとりさまの相続で遺言書がないとどうなるのか:相続人がいる場合
(1)疎遠な親族間での遺産分割協議の負担
配偶者やお子様がおらず、ご両親が既に亡くなられており、兄弟姉妹がいる(いた)場合、法定相続人は兄弟姉妹、既に兄弟姉妹が亡くなっている場合はその子どもである甥姪になります。
このような場合、遺言書がないと、残された兄弟姉妹・甥姪同士で、あなたの遺産をどのように分割するかについて話し合いをすることになります。
兄弟姉妹・甥名全員が親密な関係であればよいですが、そのようなケースはむしろ稀です。兄弟姉妹・甥姪が複数いる場合、全員の合意が必要となるため、協議が難航することがあります。長年疎遠だった兄弟姉妹や、ほとんど面識のない甥姪が、突然遺産分割協議をしなければならないことから、弁護士に依頼して解決を図らざるを得なくなることもあります。
遺言書を作成しておかないと、あなたと親しかった特定の親族に金銭的な負担や心労を強いることにもなりかねません。
(2)戸籍収集の煩雑さ
兄弟姉妹・甥姪が相続人となる場合、相続手続きに必要な戸籍を収集する範囲が非常に広くなりますので、戸籍の収集作業が容易ではありません。
子どもがおらず、両親も亡くなっている場合、あなたの出生から死亡までの連続した戸籍を取得する必要がありますが、あなたの兄弟姉妹や甥姪が全ての戸籍を取得するのは、大変な手間が掛かります。遠方にいる場合や、転籍を繰り返した場合には、戸籍を揃えるだけで数か月掛かることも珍しくありません。
(3)残された人の負担を軽くするために
兄弟姉妹と甥姪には遺留分がありません。
遺留分とは、一定の相続人に法律上保障された遺産の最低限の取得分ですが、兄弟姉妹と甥姪にはこれが認められていません。
つまり、遺言書で「特定の兄弟姉妹に全財産を相続させる」「親しい友人やお世話になった人に全財産を遺贈する」「特定の団体等に全財産を寄付する」といった内容を定めても、他の兄弟姉妹や甥姪から遺留分侵害額請求を受けるリスクがないのです。
お世話になった特定の親族や友人に遺産を渡したいとお考えの場合、遺言書を作成することで、ご自身の意思を確実に実現でき、かつ残された方々に無用な負担を掛けずに済みます。相続関係が複雑な場合や、特定の方に遺産を渡したいとお考えの場合は、弁護士にご相談いただくことで、法的に確実な遺言書を作成することができます。
3 おひとりさまの相続で遺言書がないとどうなるのか:相続人がいない場合
兄弟姉妹や甥姪もいない、つまり推定相続人(あなたが亡くなったときに相続人となる人)が一人もいない場合は、さらに深刻な問題が生じるリスクがあります。
(1)財産が放置されるリスク
相続人がいない場合、誰かが家庭裁判所に対して、相続財産を清算する相続財産清算人の選任を申し立てない限り、財産は法的に宙に浮いた状態で放置されることになります。
相続財産が宙に浮いた状態で放置された場合どのような問題が生じるでしょうか。
特に問題となるのが不動産です。戸建ての場合、管理されない空き家は周辺住民にとって防犯・衛生面での懸念材料となります。マンションの場合、管理費・修繕積立金が滞納状態となり、ひいてはマンション全体の維持管理や大規模修繕の資金計画に支障をきたし、マンション全体の価値を下げ、他の住民に迷惑を掛けてしまう場合があります。
(2)特別縁故者制度の限界
生前お世話になった人がいれば、特別縁故者として財産を受け取れるのでは?と考える方もいらっしゃるかもしれません。
確かに特別縁故者制度は存在しますが、家庭裁判所の審判を経る必要があることから、必ずしも認められるとは限りません。
また、相続財産清算人の選任を求める申立てには、相続人に多額の預貯金等があることが明らかな場合を除き、通常、数十万円から100万円程度の予納金の納付が必要になります。弁護士に依頼して申し立てる場合は、別途、弁護士費用もかかります。生前お世話になった方が特別縁故者として財産を受け取ろうとすると、費用面も含めて大変な手間となるのです。
相続財産清算人が選任されると、財産から債権者への支払いや特別縁故者への分与が行われ、最終的に残った財産は国庫に帰属しますが、お世話になった人が特別縁故者として認められないと、財産の大半が国庫に帰属してしまうこともあり得ます。
4 生前からの総合的な準備が必要不可欠
(1)誰に、どこに財産を遺すかを決める
では、遺言書で財産を遺す場合、どのような選択肢があるのでしょうか。
次の人・団体に財産を遺すことが想定されます。
- ア 親族:兄弟姉妹、甥姪、いとこ等、付き合いのあった親族
- イ 友人・知人:生前お世話になった方、親しくしていた方
- ウ NPO・公益団体:ご自身が関心を持っていた社会貢献活動を行う団体
- エ 地方自治体:お住まいの自治体や故郷の自治体への寄付
複数の受取人を指定し、財産を分けて遺すことも可能です。たとえば、「不動産は甥に、預金の半分は友人に、残りの半分は福祉団体に」といった形で、それぞれの方へ感謝の気持ちや想いを伝えることもできます。
弁護士に相談する場合も、誰に、どこに財産を遺すのか、ある程度決めたうえで相談されることをお勧めします。
(2)遺贈の受け取りを拒否される可能性
遺贈は、受け取る側が拒否することができるので注意が必要です。特に不動産の場合、固定資産税や維持管理の負担を考えて、受け取りを辞退されるケースが少なくありません。地方の利用価値の低い土地(田畑、山林など)や、古い建物などは、特にその傾向が強くなります。
遺贈先を検討される際には、受け取る意思があるかを確認しておくことが望ましいといえます。特に、法人・団体に遺贈する場合は、事前にその団体に連絡し、遺贈を受け入れる体制があるのか確認することをお勧めします。
また、不動産をお持ちの場合は、生前に売却するなどして整理しておくことも考えておく必要があります。
(3)遺言執行者の重要性
遺言書を作成する際、重要となるのが「遺言執行者」の指定です。
特に遺贈の場合は、遺言書で遺言執行者を選任しておく必要があります。
相続人以外の第三者(友人や団体など)に財産を遺贈する場合、遺言執行者がいなければ、遺贈の手続きを進めることができません。たとえば、銀行預金を友人に遺贈する場合、遺言執行者がいないと、法定相続人全員の協力を得なければ手続きができないのです。相続人がいない場合や、相続人が非協力的な場合、せっかく作成した遺言書の内容を実現することができなくなってしまいます。
株式を売却・換金する場合には、遺言執行者にその権限を遺言書に明記しておかないと、遺贈手続がスムーズに行えない場合もあります。
親しい友人等を遺言執行者に指定することも法律上は可能です。しかし、遺言執行には法的知識と経験が必要であり、不動産の名義変更など、複雑な手続きが伴います。高齢の友人等を遺言執行者に指定した場合、あなたより先に亡くなってしまうリスクもあるのです。
相続人以外の人に遺贈する場合、専門家である弁護士を遺言執行者に指定することを強くお勧めします。遺言書の内容を確実に実現し、残された方々に負担を掛けないためにも、弁護士にご相談ください。
(4)公正証書遺言がお勧めである理由
遺言書には主に「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」の2種類がありますが、おひとりさまには公正証書遺言がお勧めです。
自筆証書遺言は、形式的な不備で無効となるリスクや、紛失、改ざんのリスクがあります。検認手続きも必要となります。
もちろん法務局の「自筆証書遺言書保管制度」を利用すれば、紛失や改ざんのリスクがなくなり、検認手続きも不要となります。しかし、それでもなお、公正証書遺言の作成をお勧めします。なぜなら、法務局の職員は、外形的な不備(日付や署名の有無など)は確認してくれるものの、「遺言書の内容が法的に有効か」「文言の解釈に疑義が生じないか」「遺志を実現するためにその内容で十分か」といった実体的な審査までは行わないからです。
また、自筆証書は、現行法上は、財産目録以外の全文を自書する必要があり、高齢者や病気療養中の方、文字を書くのが難しい方には負担が大きくなります。公正証書遺言であれば、事前に公証人が文案を作成してくれますし、自署が困難な場合は公証人による代筆も可能です。
弁護士が公正証書遺言の作成に関与する場合は、弁護士が本人の意向を踏まえて文案を作成し、それを公証人に送って、公証人が最終的な文案を作成することから、公証人と直接やり取りする手間がなくなります。
配偶者やお子様がいない方の場合、遺言書の有効性や執行の確実性が特に重要となります。せっかく遺言書を作成したのに、遺言書の内容に不備があったり、適切に執行されなければ、作成した意味がなくなってしまいます。
多治見さかえ法律事務所では、公正証書遺言の作成をご依頼いただくことで、文案の作成や公証人との調整まで、全てサポートすることができます。多治見公証役場はもちろん、美濃加茂公証役場、名古屋市内の公証役場(葵町公証役場など)、春日井公証役場での作成にも対応しています。
また、公正証書遺言の作成時には証人2名が必要ですが、多治見さかえ法律事務所には弁護士が2人おりますので、2人の弁護士を証人とすることができます。介護施設や病院等に公証人が出張して公正証書遺言を作成する場合も、弁護士2名が証人となって立ち会うことができます。
5 最後に
おひとりさまの終活は、遺言書の作成だけでなく、生前の財産管理から死後の事務処理まで、トータルで考える必要があります。弁護士にご相談いただければ、それぞれの方の状況に応じた最適なプランをご提案いたします。
配偶者やお子様がいない「おひとりさま」だからこそ、遺言書の作成が必要不可欠です。
「まだ元気だから」と先延ばしにせず、元気なうちに準備をしておくことが大切です。遺言書は何度でも書き直すことができますので、まずは現時点でのお考えを形にしておき、状況の変化に応じて見直していくことをお勧めします。健康状態が悪化したり、判断能力に問題が生じると、遺言書を作成することができなくなるので、元気なうちに準備をすることが重要です。
多治見さかえ法律事務所では、おひとりさまの遺言書作成から遺言執行者の就任、任意後見契約や死後事務委任契約の作成まで、トータルでサポートいたします。一人ひとりのご事情やご希望を丁寧にお伺いし、最適なプランをご提案いたしますので、どうぞお気軽にご相談ください。