児童虐待の事実は、離婚、親権、慰謝料、面会交流に大きな影響を及ぼします。
配偶者による児童虐待を漫然と見過ごしていると、ご自身も配偶者の児童虐待を黙認していたと評価されてしまう場合があります。
配偶者が子どもに対し虐待を行っている場合や、配偶者の言動が児童虐待に当たるのではないかとお悩みの場合には、離婚に踏み切るかどうか決断できていない段階であっても、離婚と児童虐待に詳しい弁護士にご相談することをおすすめします。

児童虐待とはどういうものか?

児童虐待防止法では、身体的虐待、性的虐待、ネグレクト、心理的虐待の4種類を児童虐待と定義しています。
まず、イメージしやすいのが1つ目の身体的虐待です。身体的虐待とは、殴る、蹴る、叩く、投げ落とす、激しく揺さぶる、やけどを負わせる、 溺れさせるといった、子どものからだに外傷が生じたり、外傷が生じるおそれのある暴行を加えることをいいます。
2つ目は、性的虐待です。子どもに性的行為をする、子どもに性的行為を見せる、子どもを児童ポルノの被写体にするといったことが挙げられます。
3つ目のネグレクトは、子どもを家に閉じ込める、子どもに食事を与えない、ひどく不潔にする、自動車の中に放置する、重い病気になっても病院に連れて行かないなど、監護を著しく怠ることをいいます。
4つ目の心理的虐待は、子どもに対し言葉による脅しをしたり、無視をする、きょうだい間での差別的扱いをする、子どもの目の前で家族に対して暴力をふるう(面前DV)など、児童に著しい心理的外傷を与える言動をいいます。

激しい夫婦喧嘩も児童虐待に

児童虐待は、子どもに対して直接暴力を振るうものに限られません。
子どもの前で配偶者等に対してDVを行うことは、心理的虐待の一種である「面前DV」に当たり、児童虐待となります。
さらに、子どもの前で激しい夫婦喧嘩をすることも、心身に有害な影響を及ぼす言動として「面前DV」となる場合があります。
実際に、激しい夫婦喧嘩をしたことが児童相談所に通告され、夫婦ともに指導を受けるケースもあります。

しつけと称して叩くことは児童虐待。刑事事件に発展する場合も

子どもが悪いことをしたら怒るのは当然で、言うことを聞かなければ、叩いたり殴ったりするのは当然だ。特に、年配の方にそういった考えを持つ方がいます。
しかしながら、どのような理由であれ、子どもを叩いたり殴ったりすれば、身体的虐待となります。
児童虐待防止法14条1項で、体罰をはじめとする、児童の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動は明文で禁止されています。
従来、民法822条で、監護及び教育に必要な範囲内で、その子を懲戒することができると定められていましたが、この規定は廃止され、新たに体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動を禁止する規定が民法に盛り込まれることが決まっています。
子どもに対して暴力を振るったことで、逮捕・勾留されるケースや、逮捕には至らなくとも、警察署・検察庁で取調べを受けた上で、略式手続で数十万円の罰金納付を余儀なくされるケースもあります。

児童虐待をするのは、男性とは限らない

児童虐待をするのは男性とは限りません。
女性側が子どもに対し虐待を行ってきたため、男性側が離婚を決意し、最終的に男性側が子どもの親権者になるケースもあります。
最高裁判所の統計によると、児童福祉法28条1項の審判請求が認められたケースの中で最も多いのが、実母による虐待です。
児童虐待をきっかけに、児童が親元を離れ、児童が施設に入所したり、里親のもとで育てられる場合があります。保護者の同意が得られなくても、一定の場合には、児童相談所長が、裁判所に申し立てて、2年間、保護者の同意なく、施設入所や里親委託を裁判所に認めてもらう手続きがあります。これが、児童福祉法28条1項に基づく承認審判の申立手続きです。
最高裁判所事務総局家庭局作成の「親権制限事件及び児童福祉法に規定する事件の概況-令和3年1月~12月-」によると、令和3年の1年間に児童福祉法28条1項の審判請求が認められた件数は335件で、その335件のケースのうち、実父による虐待が29.6%、実母による虐待が54.0%、養父による虐待が7.4%、養母による虐待が1.7%となっています(実父・実母がどちらも虐待しているケースなど、同じ事件に複数の虐待者が存在するケースもあります)。
他の年も、同様の傾向にあります。
妻の児童虐待に悩むものの、男性側が親権者になるのは難しいと考え、離婚に踏み切れないまま、時間だけが過ぎてしまうケースもあります。
しかし、妻による児童虐待を漫然と見過ごしていると、あとから、妻の児童虐待を容認・黙認していたと評価されてしまう場合があります。
配偶者が子どもに対して虐待を行っており、親権についても争わざるを得ないとお考えの場合は、児童虐待や離婚に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。

虐待の有無が面会交流の実現に影響する場合も

別居親が子どもを虐待していた場合、子どもが面会により更なる精神的苦痛を受けるおそれがあるとして、面会交流そのものを禁止するといった結論になったり、直接交流は認めず、間接交流にとどめたり、第三者機関の利用等を条件にするといった結論になる場合があります。
面会交流を求める側、求められる側、どちらの立場であっても、調停や審判手続きでは、面会交流が子の利益に反するといえるような事情があるかどうか、面会交流を行うとしてどのような条件で行うことが望ましいのか、しっかりと主張していく必要があります。
どちらの立場であっても、児童虐待や離婚に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。